扶養控除・ひとり親控除:令和6年改正について
2024/07/30
扶養控除は、日本の所得税制度において重要な役割を果たす要素の一つです。特に、扶養家族を持つ納税者にとっては、税負担を軽減するための大切な制度です。本稿では、扶養控除の基本的な知識を振り返りつつ、新たな改正内容とその影響について詳しく解説します。
目次
扶養控除とは?基本的な理解を深める
扶養控除とは、税金の計算において扶養家族を持つ納税者が受けられる控除の一つです。この制度は、一定の要件を満たす扶養親族を持つことで、所得税や住民税の負担を軽減することを目的としています。日本の場合、扶養親族には子どもや配偶者、その他の親族が含まれます。 扶養控除を受けるためには、該当する扶養親族が一定の年齢や所得の基準を満たす必要があります。現在の税法では、16歳以上の扶養親族を有していれば「一般扶養親族」として控除対象になります。また、特定扶養控除という特例もあり、19歳以上23歳未満の学生や特定の支援が必要な親族の場合は、「特定扶養親族」として所得税は25万円、住民税は12万円が加算されます。 これらの控除は、年末調整や確定申告の際に申請することができます。適切に申告することで大幅な税の軽減が可能となるため、扶養控除の内容をしっかり理解しておくことが重要です。
また、ひとり親控除とは、婚姻歴の有無にかかわらず、子育てを行っている方(ひとり親)で一定の所得金額(合計所得金額5百万円以下)の場合に35万円の所得控除が適用される制度です。
令和6年改正の概要
現在は、16歳から18歳までの扶養親族を有する場合は、一人当たり所得税38万円、住民税22万円の控除が認められていましたが、令和6年改正により、所得税25万円、住民税12万円に控除額が引き下げられることとなりました。
一見すると子育て世代に対する増税と思われるかも知れませんが、実はこの改正の背景には令和6年10月からの児童手当の支給拡充があります。
現行の児童手当制度は、一定の所得制限のもと年齢が15歳までの子供を有する場合に支給されていましたが、令和6年10月からは所得金額の制限が撤廃され、第3子以降の手当てが増額されるとともに、支給年齢が18歳まで延長されることになりました。
改正後の児童手当と扶養控除の関係を図で整理すると以下の通りとなります。
0~2歳 | 3~15歳 | 16~18歳 | 19~22歳 | |
児童手当 |
第2子まで 1.5万円/月 第3子以降 3万円/月 |
第2子まで 1万円/月 第3子以降 3万円/月 |
第2子まで 1万円/月 第3子以降 3 万円/月 |
なし |
扶養控除 | なし | なし |
所得税 25万円 住民税 12万円 |
所得税 63万円 住民税 45万円 |
つまり、控除から手当にシフトすることにより、特に所得の低い方にとっては所得控除による減税効果より手当を受給した方が手取りが増えることなります。例えば、高校生の扶養親族が1人おり、年収が240万円の方は、もともと所得税が課税されていなかったため、所得控除による減税効果はありませんでしたが、改正後は児童手当12万円が受給できるため、それだけ手元にお金が残ることになります。
また、ひとり親控除については、控除額が38万円に引き上げられるとともに、控除を受けることができる所得金額の制限額が500万円から1,000万円に引き上げられました。
改正の背景
前回、住宅ローン控除の子育て世代を対象とした限度額引き上げの改正について説明をしましたが、扶養控除の改正も目的としてはやはり我が国が直面している少子高齢化社会を食い止めるため、特に若い方たちが子供を産み安心して育てることができる環境を整えようという政府の方針が色濃く反映されたものとなっています。
最近の新聞報道などを見ると、我が国の人口は死亡者数が出生者数を上回る自然減の状態が続いており、このままでは近い将来必要な社会インフラが維持できなくなる恐れがあるそうです。
少子化問題は税制だけで解決できる問題ではなく社会全体で考えないといけない課題である思いますが、今回の改正が少しでも少子化対策に資するものであってほしいと思っています。
適用年分は令和8年分
なお、今回の扶養控除の改正につきましては、所得税につきましては令和8年分の所得税から、住民税につきましては令和9年度分の住民税から適用される見込みとなっており、最終的には令和7年度の税制改正で決定されることとなっております。したがって、今後の政治経済の情勢により変更される可能性もありますので、気になる方は今年年末の税制改正を待って税理士など専門家へ確認されることをお勧めします。
このように、新しい扶養控除制度は家庭の税負担を軽減し、さらなる支援を実現するための重要なステップです。税理士は、顧客がこの制度を最大限に活用できるよう、正確な情報と適切なアドバイスを提供する責任があります。
扶養控除の申請手続きと注意点
扶養控除の申請手続きは、所得税の軽減に大きく寄与します。扶養控除を受けるためには、まず扶養家族の要件を確認しましょう。一般的には配偶者や子供、その他の親族が対象です。申請は年末調整や確定申告の際に行うことができます。 具体的な手続きとしては、まず扶養控除等(異動)申告書を用意します。この書類には扶養対象者の名前や生年月日、続柄などを記入し、必要に応じてその証明書類を添付します。例えば、学生である場合は在学証明書、同居していない場合は収入証明書が求められることがあります。 注意点としては、扶養控除の対象となる家族の所得制限があります。2023年度の場合、対象者の年間所得が48万円以下であることが必要です。また、申請が遅れると税金の還付が遅れたり、控除が受けられなくなる可能性がありますので、早めに手続きを行うことが重要です。 税理士としては、正確な情報提供とともに、適切な書類の確認を行うことが求められます。不明点があれば、専門家に相談することをお勧めします。扶養控除を有効に活用し、税負担を軽減しましょう。