令和6年度改正・賃上げ促進税制で税理士が教える、企業にとってのメリットとは?
2024/07/16
令和6年度に入り、賃上げ促進税制の改正が発表されました。この税制改正により、企業が従業員の賃金を引き上げる際に税金が軽減される制度が改正されています。この制度によって、企業にとってどのようなメリットがあるのか、税理士が解説します。
目次
賃上げ促進税制とは?
賃上げ促進税制とは、労働力の確保や貧困対策の観点から、企業が従業員の賃金を上げることを促進するために導入された税制です。具体的には、従業員の賃金を前年比で上げる企業に対して、所得税・法人税・地方税の控除や、一定額の減税などの優遇措置が与えられます。ま この税制を通じて、企業は従業員のモチベーション向上や定着率の向上を図ることができ、従業員の生活水準の向上にも繋がります。また、賃金の上昇によって、個人消費の拡大が促進され、景気回復にも繋がります。一方で、改正・賃上げ促進税制の対象となることによって、企業には一定の財政的負担が求められます。ですが、長期的な視野で見れば、企業と社会全体の発展に繋がるメリットが大きいと言えます。税理士としては、この税制についての適切なアドバイスや手続き支援を提供することが求められます。
改正前の賃上げ促進税制
令和6年度税制改正による賃上げ促進税制を説明する前に、これまでの賃上げ促進税制について簡単に説明いたします。
これまでの賃上げ促進税制は、企業を「大企業」と「中小企業」に区分した上で、それぞれ適用できる従業員(雇用者)の要件や、控除できる金額の計算方法が異なっていました。なお、ここで言う「大企業」とは資本金が1億円以上の法人を指し、「中小企業」とは大企業以外の法人を指していました。
大企業は、日本の会社全体のわずか0.7%しかありませんので、ここでは中小企業に対するものをご説明いたしますと、会社の前期と今期の給料の支払額を比較して今期の給料を前期より1.5%以上多く支給した場合はその差額(増加額)の15%を、2.5%以上支給した場合は差額の30%の金額を納付すべき法人税(所得税)から減額(控除)できました。さらに、教育訓練費を一定額支出している場合は、別途10%の上乗せがありましたので、最大40%(30%+10%)の控除を受けることができる制度でした。
ただし、控除できる税金は、最大で当期に支払うべき法人税額の20%までであり、また、当期にそもそも納付する税金が無い場合は、仮に上記の適用要件に当てはまっていても減税の恩恵はありませんでした。
令和6年度税制改正による大企業の改正点
令和6年度税制改正では、従来の「大企業」のうち、従業員数が2,000人以下の企業については、新たに「中堅企業」というカテゴリーに区分した上で、従来の「大企業」の賃上げ要件を維持しつつ、控除率を見直すなどにより、より高い賃上げを行いやすい環境を整備しました。
ただ、中堅企業も従来の大企業から分離したものであり、資本金1億円以上、従業員2千人未満という基準は全法人の1%にも満たない数ですので、このコラムでの詳細の説明は省略いたします。
もっとも、レアケースではありますが、中小企業の中でも場合によれば大企業あるいは中堅企業の制度を使った方が有利な場合もありますので、注意が必要です。
令和6年度税制改正による中小企業の改正点
中小企業(資本金1億円未満かつ従業員2千人未満)に適用される賃上げ促進税制については、従来の適用要件(全従業員の給与支給額の対前期1.5%又は2.5%以上の増加)などは変更されていませんが、子育てや女性活躍などに積極的に取り組んでいる企業として認定された場合は、別途5%の控除率が加算されます。
さらに、今回の改正で一番大きな影響がある点として、これまでは認められていなかった控除額の5年間の繰越控除が認められたという点です。
これまでは、せっかく賃上げを行っても当期の利益が赤字となった場合は、減税の恩恵は全く受けられなかったところ、今後は、たとえ当期が赤字である場合であっても、仮に翌期が黒字になった場合には、当期に控除できなかった控除金額を控除することが可能となったということです。
今回の改正は、政府が目指している持続的な賃上げの実施による経済の好循環を達成するためには、我が国の企業の9割超を占めている中小企業の従業員の賃金をいかにして上げていくか、ということが背景にあると思います。
中小企業向け賃上げを実施することで得られるメリットとは?
近年、労働環境の改善や社会保障の充実などが求められており、賃上げもその一つの解決策の一つとして注目を集めています。しかし、賃上げを実施する企業にとっては一定のコストを伴います。そこで今回は、賃上げを実施することで得られるメリットについて解説いたします。 まず、賃上げを実施することで従業員の士気が向上します。給与に対して不満を持つ従業員は、やる気を失い成果を出せなくなってしまいます。しかし、適切な評価を受け、報酬が適正な場合は、より仕事に取り組みやすくなることが期待できます。 また、人材の確保にも有利です。求人に対して応募が集まり、選りすぐりの人材を採用することができます。そして、有能な従業員を募り、育てることで、企業の成長につながることが期待できます。 さらに、一定の報酬を得ることで、従業員が消費活動を増やすことができます。それが経済にも活力を与え、トリクルダウン効果として多くの人に恩恵をもたらすことができます。 以上のように、賃上げを実施することで、従業員や企業、そして経済全体にプラスの影響があることが予測されます。そのため、各企業は、適正な報酬を得ることで、一層の成長を遂げることができると考えられます。